ナインブックス

本にまつわることを、よく書く(はず)。

トラベル・ブルーを抱きしめて-『観光の哀しみ』

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さて、GWである。

 

ワーカーホリック気味な日本人も、ここぞとばかりに方々に足を伸ばし、逆に、ここぞとばかりに我が家でごろごろと寝転がったりする、そんなちょっと特別なひととき。

 

僕も、旅行にいく。

 

渋滞やら人混みやらを考えると、「GWに旅行」というのはむしろ忌避したくなってしまうのだけど、悲しいかな、諸々の都合を調整していくと結局「GWに旅行…だな!」という結論に落ち着いてしまう。

 

ワクワクはしているのだけど、ちょっぴり億劫。
そんな心持ちだから、この本に手が伸びたのかも知れません。

 

酒井順子は、「観光は哀しさに満ちている」と語ります。

 

非日常を楽しみながらも、胸にこみ上げる「自分はここで何をしているのだろう」というかすかな場違い感。

 

観光という行為は、基本的に「招かれてもいないのに出かけていく」ことで成り立っているという酒井の論には、思わず頷いてしまいます。

 

困ったことに(?)、その哀しさ、トラベル・ブルーもまた、旅の味わいを増す一種の隠し味になっているのです。

 

哀しいけれど、その哀しさゆえに、人はまたノコノコと見知らぬ土地に足を踏み入れていく。

 

旅行の本質を突く言葉で始まる本書ですが、そこは酒井順子、バッサリと各地の観光地をなで斬りながら、痛快な語り口で僕らを楽しませてくれます。

 

細かなコラムが散りばめられているけれど、中でも「アンナ旅 vs 耕太郎旅」と題したテキストは面白い。

 

ハワイ常連の梅宮アンナと、旅のバイブル『深夜特急』を生み出した沢木耕太郎を、「何も考えない旅」と「物を考える旅」という名目で対決させます。

 

思わず沢木耕太郎にササッと軍配を上げたくなるけれど、この両者、実は同じ一派ではなかろうかなんて話になっていって。

 

とまぁ、よい意味で軽く読める1冊ですので、お気軽にぱらりとめくってみてください。

「旅行ではなく、旅がしたい」なんてちょっぴりひねくれた(僕も)あなたには、特におすすめです。

 

観光の哀しみ

観光の哀しみ