なんだか、久しぶりだね-『もう一度読みたい 教科書の泣ける名作』
以前、小説の面白さを知ったのは川上弘美だと書いた。
その川上弘美を知ったのは、高校生の時の国語の教科書だった。
授業中、教壇に立つ先生の言葉を聞き流しながら、退屈しのぎにめくっていた教科書。
そこに、川上弘美の短編『神様』が載っていた。
となりの部屋に越してきた、大きな熊。
彼に誘われて川原まで散歩する、というだけの短いお話なのだけれど、「小説はこんなに自由でいいんだ」と爽やかな衝撃を感じたのを覚えている。
他にも、いくつかの小説や詩が、何年経っても僕の頭にこびりついている。
ほんのりと男女の恋愛模様を思い起こさせる「ジーンズ」。
幼い頃の氷菓子の思い出と悲しい戦争が結びついた「アイスキャンデー売り」。
巻き戻ることのない時間の"絶対さ"を見せつけられた「小さな手袋」。
断片的に、ではあるけれど、いくつかのワンシーン、そこで自分が描いた光景を、今でもありありと思い出すことができる。
だから、実は、その話のタイトルや著者については、おぼろげな記憶だったりする。
白状すれば、上記にあげた作品の中にも、覚えている内容を検索窓に打ち込んで調べ出したものがある。
書名の通り、教科書で取り上げられていた名作をひとまとめにした『もう一度読みたい 教科書の泣ける名作』。
見覚えのないタイトルでも、読み進めていくうちに「ああ、これは!」と当時の感触を思い起こさせる作品がきっとあるだろう。
どれだけ時間が経っても、作品は変わらずにそこに在り続ける。
風化することのない言葉というものの耐久性は、なんだかとても、頼もしい。