旅の合間に- 「旅のつばくろ」(『トランヴェール』収録)
子供のころには一大イベントだった、”新幹線”。
社会人として働くようになるにつれ、そのワクワク感は次第に薄れ、ちょっと味気ない”長距離移動”に変わってしまった。
特に、上田に越してきたことで、新幹線の移動は日常のひとつとして組み込まれるようになった。
でも、新幹線には新たな魅力を感じるようになった。
それはなんと言っても、「本を読むのがはかどる」ということ。
幸か不幸か、トンネルが多い長野・東京間では電波が弱い。無理を押してでもPCで仕事を、と粘るよりも、潔くカバンから本を取り出して活字を楽しむのが吉ですな。
さらにさらに、僕が新幹線で密かに楽しんでいることがある。
それは、車内誌『トランヴェール』に収録されている、沢木耕太郎の旅にまつわるエッセイだ。
国内・国外を問わず、種々の土地を渡り歩いてきた沢木。
舞台となるそれぞれの風景の描写もよいのだけれど、それよりも、その旅への彼の思いがふんだんににじみ出ているのが、とても健やかだ。
不安を覚えながら降りたバス停、ライターとしての在り方を教えてくれた、今は亡き編集者を思いながら歩く桜道。
彼にしか語れない、彼だけのエピソードだけど、そのひとつひとつが僕の胸にも染み入ってくる。
旅の終わりは、旅の完結を意味しない。
その後の自分の人生、当時を振り返るその時々のタイミングで、かつての旅の色合いはいかようにでも変わるんだろう。
駅弁を食べてからでも、トンネルに入ってからでもいい。
ちょっと一息、という間が生まれたら、目の前にある旅の活字に手を伸ばしてみて欲しい。
拘束時間になりがちな長距離移動の中で、鮮やかな小旅行を楽しめるはずだ。