大好きな言葉たち-『大好きな本』
小説っておもしろい、と思ったのは、川上弘美がきっかけだった。
日常から少しだけずれた不思議な世界を、とても平易な言葉で紡いでいく。
やわらかく、のびやかで、すっと胸に染み込んでくる。
時折、そこには小瓶に入った毒も混ざっていて、するすると自分の中に入り込んでくるのが少しおそろしい。
彼女の小説を読むときは、リラックスした心地ではあるのだけれど、ほんのわずかな緊張感が指をしめらせる。
今、ちまちまと内職のように本の紹介を続けているけれど、そういった意味でも川上弘美は大先輩だ。
彼女がこれまで書いてきた書評や解説文がギュッと詰まった、『大好きな本』。
数ページにおさまる紹介文が立ち並び、その数、計144冊である。
書評にルールはないが、暗黙の引力というか、あるベクトルが生まれる。
その本を紹介する、という方向性だ。目的、と言ってもいいかも知れない。
それに無理に応えようとすると、紹介よりも"説明"に近い文章になってしまう。
なんだか自分の首を自分で締めにいっているきがするので、ここら辺までにしておこう。
川上弘美は、その目的をきちんと果たしつつ、でも彼女だけの言葉を綴っていく。
読み手である自分が、何を感じ、どのように心を揺り動かされたのか。
紹介される本にも興味を惹かれるけれど、それよりも、彼女がその本にどんな風に触れていったのかを感じることができて、うれしい。
書き手だけでなく、読み手としてもその手腕にうならされる。
ますます、小説の、言葉のおもしろさを見せつけられてしまった。