そば、そば、そば。-『そばと私』
長野県は、そばがうまい。
当たり前すぎて通説のように感じ取っていたけれど、実際に長野に来てそばを食べてみると、本当にうまいのだからしょうがない。
味はもちろん、そこかしこにそば屋があるものだから、自然とズルズル音を立ててそばをすするのが日常になった。
そうなると、そば自体への関心もじわじわと大きくなり、『そばと私』もふむふむと以前より愉しく読めるようになった。
1960年に創刊した、「季刊新そば」。
なんともマニアックな雑誌ではあるけれど、この歴史が日本人の持つそば愛を端的に表している。
この雑誌に寄せられた、そば好きたちのエッセイをまとめたのが本書だ。
由緒あるそば雑誌となると、書き手も豪華、かつバラエティに富んでいる。
赤塚不二夫、色川武大、養老孟司、米原万里……
そばの魅力にとらわれた総勢67人が、各界から馳せ参じているというわけだ。
個人的には、建築家・隈研吾の「線的なものと身体」が特におもしろかった。
「食べ物と建築とはパラレルだ」という意外な言葉から始まる本稿。
塊でも面でもなく、線の建築家である隈研吾とそばの間に、不思議な共通項が浮かび上がってくる。
なかなか侮れないぞ、そば。
どのエッセイも数ページ、そばのようにささっと飲み込めるのもまた乙ですな。
お好きな書き手から、どうぞズルズルっと一杯やってください。