観光者の愉しみ-『観光ホテル旅案内』
「どこかに行こう」と思うことは多々あれど、その度に「さて、どこに行こう」と考え込んでしまう。
美味しい食べ物やら、常々訪問したいと思っていた本屋やら、いろいろポイントはあるけれど、なかなか踏ん切りがつかない。
そんな時はいつも、泊まりたい宿から目的地を逆算するようにしている。
どこに行こうと、基本的には寝る場所が必要だ。だったら、そこから決めちゃう方が早いよね、というわけだ。
宿が決まったら、その宿に近いスポットを探していく。時にはノープランで向かい、宿の人に「僕はどこに行ったらいいですかね?」なんて丸投げな問いかけをしている。
そんな僕にとって、『観光ホテル旅案内』はとってもありがたい。
いわゆる高級宿とは違うけれど、それぞれが歴史と趣を持った、なんだか愛でたくなる観光ホテルたち。
Airbnb も好きだけど、こうしたお宿に泊まると自分が"ザ・観光者"になれた心地がして、そのよそ者感を演じるのがむしろ楽しい。
酒井順子に言わせれば、それが「哀しみ」の元なのだろう。
表紙にもドーンと登場する「ホテルニューアカオ」には、数年前に訪れた。
レトロな館内を楽しみつつ、夕食時には初めてのディナーショーなるものに遭遇。女性の外国人歌手が高らかに"レディゴー"を歌い上げながら、各テーブルを練り歩く。
気がつけば、僕も満面の笑みで手を振り、握手を交わしていた。
ああ、これぞ観光ホテルの魔力。
スナフキンのように自由で気ままな旅人にも惹かれるけれど、やっぱり、浴衣を着て顔はめパネルに興じる観光者も捨てがたいのだ。