僕らはいつも過去を通りすぎていく-『夜とコンクリート』
気がつけば、夏が傍らまできていた。
夜。心地よい風が、半袖から伸びた腕をさらりと撫でていく。
何をするでもなく、ぼうっと呼吸をくりかえす。
おだやかな空気は、それだけで「今は、何もしなくていいんだよ」と無為に過ごす自分を肯定してくれている気がして、嬉しい。
夏が近づくと思い出すのが、『夜とコンクリート』に収録された「夏休みの町」。
大学生の夏休み、ひょんなことから謎の科学者と出会い、山頂に現れるという飛行物体を待つ。
ちょっとしたSF青春物、なんて乱暴な括りもできるかも知れない。
でも、この物語にはある種の不穏な空気というか、哀しみが通底している。
物語のラストには、"青春の想い出"というものが持つ泣きたくなるほどの儚さが、一夏の幕引きと一緒に描かれていく。
町田洋の作品は、いつも「過去を振り返っている」ような気がしてならない。
振り返った先にある過去は、自分の想いが投影された蜃気楼かも知れない。
でも、もうそこに戻る道はないし、戻る必要もない。
そして、実は「今」もまた、「未来の過去」であることに気がつかされる。
自分が、現在進行形でアルバムに収録されていく。
そんな空想は切ないけれど、夏の醍醐味、なのかもね。
今時分、夜半にひっそりとめくるのに、とてもおすすめな1冊です。
よろしければ、ぜひ。